SaaSはビジネスの現場で日に日に存在感を増しています。その理由の一つには、SaaSの導入のしやすさが挙げられます。SaaSはクラウドを介して提供され、比較的安価に導入が可能です。また、ユーザーは複雑なITインフラを構築する必要がなく、導入工数を最低限に抑えられます。ただし、導入が容易である反面、もしサービスが期待に応えられない場合、ユーザーは簡単に解約してしまいます。SaaSのサービスは月額または年額で提供されるため、ユーザーは常に費用対効果を評価しています。SaaS提供企業は、顧客の解約率を減らすという課題に直面しています。ユーザー獲得にかかる費用を考えると、解約の兆候を事前に検知し、解約を減らすための取り組みをすることが重要です。この記事では、SaaS提供企業が解約率を減らす必要性と、具体的な解約防止策について紹介します。解約率の高さに悩むSaaSビジネス事業者は、ぜひこの記事を参考に具体的な施策を立案していただければ幸いです。SaaSの解約率は高い業種やビジネスモデルによっても変わりますが、米国の調査会社のレポートによると BtoB SaaSの解約率は平均で年間5%程度と言われています。しかし、ユーザーの規模によって解約率というのは全く変わります。The Innovator’s Dilemma for SaaS Startupsが発表したレポートによると、中小企業(SMB)に絞った数値では、月次のユーザー解約率は3-7%、年間でのユーザー解約率は31%-58%に上るとのことです。これは2015年のデータでやや古いものですが、この数値がそのまま適用されるとすると、中小企業(SMB)では年間を通じてユーザー総数が半分近く減少することになります。SaaS市場の競争が激化し、多くのSaaS企業が中小企業(SMB)ではなく、大企業を顧客として獲得することに苦心しています。この状況を考慮すると、解約率は重要な経営課題と言えるでしょう。日本のBtoB SaaS企業の中でも、上場企業であるSmartHRは優れた例として知られています。SmartHRでは、さまざまな解約率抑制策を実施した結果、月間の解約率を持続的に1%以下に抑えていると言われています。SaaS提供企業が解約率を下げる施策に取り組むべき理由解約率を下げる施策に取り組む理由は、顧客生涯価値(LTV)を向上させることに直結します。顧客生涯価値とは、ユーザーがサービスを利用する期間中にもたらす総利益のことです。解約率を低く抑えることで、ユーザーが長期間にわたってサービスを利用し続ける可能性が高まり、その結果として顧客生涯価値が増加します。顧客生涯価値を最大化することは、SaaS提供企業にとって重要な目標です。なぜなら、顧客生涯価値が高いほど、ユーザー獲得コスト(Customer Acquisition Cost)に対するリターンが大きくなり、ビジネスの持続性が向上するからです。さらに、顧客生涯価値の高いユーザーは、リファラル(紹介)によって新規ユーザーの獲得にもつながる可能性があります。既存ユーザーからのリファラルによって獲得されたユーザーは、他のリードソースから獲得されたユーザーよりも契約までの日数が短く、継続率も高いとされています。総合的に言えば、解約率を下げる取り組みによって、さまざまなプラスの効果が期待できるのです。よくあるSaaSの解約理由ここでは、よくあるSaaSの解約理由と対策について紹介します。料金が高いSaaSの料金が高すぎると、ユーザーは割安な類似の他社サービスに乗り換えることを検討します。SaaS提供企業は、ユーザーの利用実績に合わせて柔軟にプライシング体系を変更できるように仕組み化することが重要です。サポートが悪いユーザーがサポートに不満を持つと、SaaSを解約する可能性が高くなります。一度サポートに不満を持つと、次回以降も問い合わせ窓口を活用することがなくなり、製品に対する要望や不満が運営側にフィードバックされなくなることが一因です。サポート体制を整備することはもちろん、問い合わせの問題解決率や応答品質を計測し、対応品質を地道に改善することが重要です。使い勝手が悪い・機能が足りないSaaSの使い勝手が悪い場合や、必要な機能が足りない場合、ユーザーは他社のサービスに移行する可能性が高くなります。定期的な製品アップデートを通じて使い勝手を改善することで、常に変化するユーザーの要望に対応する必要があります。ニーズにあった製品を提供するには、ユーザーからの声(VoC)を定期的に吸収する仕組みを整備することも重要です。社内担当者が変わったユーザー側で製品を後押ししてくれた担当者が変更になるケースがあります。新しい担当者は製品に対して知識も少ないことから、一気に解約に向けた舵を切ることがあります。SaaS提供企業側はユーザー側での変化を敏感に検知し、担当者が変わった際には特に注意して製品理解を促すことが重要です。予算が取れなかったSsaSのツール予算が取れなかった場合、いくら解約阻止に動いても方針を覆すことができないケースが多々あります。予算取りの時期は往々にして更新時期よりも数ヶ月前であることが多いため、定期的なコミュニケーションの中で予算確保の時期や進捗を把握することが重要です。SaaS解約を防止するための取り組みSaaS解約を防止するための取り組みには様々な方法がありますが、ここでは以下の4つの取り組みを取り上げます。ユーザーサポートの強化ユーザーが問題や疑問を抱えた際に迅速かつ適切に対応できるユーザーサポートが重要です。サポートチャネルの多様化(チャット、メール、電話など)やサポート体制の充実、FAQやヘルプセンターの整備などを通じて、ユーザーが安心してサービスを利用できる環境を整えましょう。カスタマーサクセスの推進カスタマーサクセスは、ユーザーがサービスを最大限活用できるよう活用支援をする取り組みです。導入支援やトレーニング、アカウントマネージャーによるリレーションシップの構築など、ユーザーがサービスに満足し続けるための支援を行います。ユーザーの成功を共に目指すことで解約のリスクを低減させることができます。プロダクトの改善と機能追加ユーザーのニーズや市場の変化に応じて、サービスの改善や機能追加を継続的に行うことが重要です。ユーザーからのフィードバックを活用し、彼らが求める機能や改善点を取り入れることで、サービスの価値を高め、ユーザー満足度を向上させることができます。ユーザーのニーズに合わせたプランの提供ユーザーのニーズに合わせたプランを提供することで、ユーザーが必要な機能を利用できるようになり、解約を減らすことができます。また、ユーザーが予算に合わせたプランを選ぶことができるようにすることで、予算が取れなかった場合の解約を防止することができます。これらの取り組みにより、SaaS提供企業は解約を防止し、ユーザー満足度やユーザー生涯価値を向上させることができます。まとめ本記事では、SaaSの解約率の高さや、よくある解約理由、そして解約を防止するための取り組みについて紹介しました。SaaSビジネスを運営する事業者にとって、解約を減らす取り組みが重要であるとお分かりいただけたかと思います。今回の記事で紹介したような取り組みを行い、長期的なユーザーからの信頼獲得につなげていただければと思います。