近年、クラウド技術の進歩に伴い、SaaS(Software as a service)製品を提供するハードルは大きく下がりました。結果としてSaaS開発は急速に競争力のある市場となり、多くの開発者や企業が革新的なソリューションを提供するためにこの分野に参入しています。また、昨今の人工知能への注目が集まり、最先端技術もSaaSプラットフォームに組み込まれるようになりました。これらの技術がビジネスや個人の生活にさらなる利便性をもたらすことが期待されています。この盛り上がりを受けて、効率的かつスピーディーに製品を投下できるよう、開発プロセスの設計や体制構築に注目が集まっています。そこで今回の記事では、失敗しないSaaSの開発プロセスや体制について取り上げていきます。この記事を通じて、SaaSのビジネスモデルについて理解を深めると共に、新たな開発手法を検討するきっかけになれば幸いです。SaaSのビジネスモデルの特徴SaaSは、ソフトウェアをサービスとして提供するビジネスモデルです。従来のオンプレミス型ソフトウェアと異なり、SaaSはインターネット経由で提供され、顧客は使用量や機能に応じて課金されます。SaaSの主な特徴は以下の通りです。クラウドベース: インフラ、プラットフォーム、ソフトウェアがすべてクラウド上で提供されます。顧客はインストールやメンテナンスについて自前で実施する必要がありません。サブスクリプションモデル: 顧客は使用量や機能に応じて定期的に課金されるため、初期費用が低く抑えられます。随時アップデート: ソフトウェアはクラウド上で管理されるため、アップデートが容易で、顧客は常に最新の機能を利用できます。グローバルアクセス: インターネット接続があれば、世界中どこからでもアクセスできるため、リモートワークやグローバルチームでの利用が容易です。SaaSのビジネスモデルの登場によって、ソフトウェアが市場に投下されるスピードは格段に上がりました。近年ではノーコード・ローコードツールが登場し、開発スピードはますます向上しています。ノーコード・ローコードツールについての詳細はこちらの記事をご覧ください。SaaSの開発方法SaaSの開発では、スピード感を保ちつつ、継続的に顧客の声に継続して耳を傾ける開発手法が求められます。以下に、SaaS開発に適した手法をいくつか挙げていきます。アジャイル開発顧客の要望や市場環境の変化に柔軟に対応できる開発手法です。スクラムやKanbanなどのアジャイル手法を取り入れることで、短期間でのリリースを可能にしていきます。スクラムスクラムは、反復型・進化型のアジャイル開発手法の一つで、開発チームが短い期間(スプリント)ごとに成果物を生み出すことを目指します。スクラムマスター、プロダクトオーナー、開発チームが協力し、透明性と柔軟性を重視した開発が行われます。 KanbanKanbanは、作業項目を可視化し、チームメンバーがタスクの進捗状況を把握できるようにすることを目的としています。カンバンボードを使用し、タスクの状態(例:To Do、In Progress、Done)を明確にすることで、チームの生産性向上を目指します。マイクロサービスアーキテクチャサービスを独立した小さなモジュールに分割し、それぞれを独立して開発・運用するアーキテクチャです。これにより、開発チーム間の連携が円滑になり、迅速なアップデートが可能となります。特にドメイン駆動設計(DDD)という手法が注目を集めています。ドメイン駆動設計(DDD)マイクロサービスアーキテクチャの設計原則の一つで、ビジネスドメインを中心にサービスを設計・実装するアプローチです。ビジネス要件を正確に理解し、柔軟で効率的なソフトウェア設計が可能になります。CI/CDパイプライン 継続的インテグレーション(CI)と継続的デプロイメント(CD)を実践することで、開発プロセス全体を効率化し、迅速なリリースが可能になります。バグや機能追加に素早く対応でき、顧客満足度の向上が期待できます。継続的インテグレーション(CI)開発者が頻繁にコードを共有リポジトリに統合し、自動化されたビルドとテストを行うプロセスです。CIにより、バグの早期発見や修正が可能となり、開発サイクルの短縮が期待できます。継続的デプロイメント(CD)開発されたコードが自動的にテスト、検証、本番環境へデプロイされるプロセスです。CDにより、新機能の迅速なリリースやバグ修正が可能となり、開発チームの効率が向上します。SaaS事業者の開発体制SaaS事業者はクロスファンクショナルなチームを組んで開発に取り組むことが一般的です。 開発者、デザイナー、プロダクトマネージャー、QAエンジニアなど、各専門分野のメンバーで構成されるチームです。プロダクトの市場要件を定義し、内容をエンジニアに伝え、実装につなげるためのスムーズなコミュニケーションと迅速な意思決定が可能となります。また、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスなどビジネス側から顧客からの声(VoC)を絶えず吸い上げ、製品に反映させていく仕組みの構築も欠かせません。ビジネスサイドも巻き込んで、顧客からの要望をシームレスに開発に反映させることができます。同時に、開発体制を考える上では、開発をいかにスピーディに実施できるかも鍵になります。昨今では、グローバルに拠点を分散させ、分散開発チームを組むケースも増えています。 グローバル市場での競争力を高めるため、異なる地域やタイムゾーンに分散した開発チームをおき、開発の効率性を上げていきます。この手法をとれば実質的に24時間開発体制が実現可能になります。SaaS開発において気をつけるべきこと失敗しないSaaS開発のために、以下のポイントに注意することが重要です。セキュリティ対策: クラウドベースのサービスであるため、顧客データの保護が重要です。最新のセキュリティ技術や手法を取り入れ、随時アップデートすることが求められます。パフォーマンス最適化: クラウドインフラストラクチャの最適化やコードの効率化を行い、サービスのパフォーマンスを向上させることが重要です。ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上: シンプルで直感的なUIデザインや使い勝手の良い機能設計を行うことで、顧客満足度を高めます。データドリブンな意思決定: ビジネスや開発における意思決定を、定量的なデータに基づいて行うことで、客観的かつ効果的な判断が可能となります。SaaS開発においては、競合の開発の速度も早く、ユーザーが欲しがる製品や機能の要件定義をいかに正確な判断を元に実施できるかが問われます。まとめ本記事では、失敗しないSaaS開発プロセスや体制について解説しました。SaaSは、アジャイル開発、マイクロサービスアーキテクチャ、CI/CDパイプラインを活用することで、効率的な開発が可能となります。また、クロスファンクショナルチームや分散開発チームを採用することで、より迅速で効果的な開発が実現できます。SaaS市場は日々変化し続けています。開発者やシステム設計者は、新しい技術や手法に常にアンテナを張り、柔軟な開発体制を維持することが求められます。今回の記事が、競争力のあるSaaSソリューションを提供する一助になれば幸いです。