近年、クラウドサービスの進化に伴い、システム連携の仕組みも複雑化してきました。多くの企業ではSaaSを導入し、SaaS間でのデータ連携や時にはオンプレミスシステムとのデータ連携を試みています。そのような中で、アプリケーションやシステム間の連携をクラウド上で実現するiPaaS(Integration Platform as a Service)の需要が拡大しています。そこで今回の記事では、iPaaSが選択される場面について、API連携との比較から解説していきます。ビジネスで使用されるシステム間の連携方法は多岐にわたり、どの連携手法が適切なのか悩まれるケースもあるかと思います。今回の記事を通じてiPaaSの特徴を正しく理解し、選択肢の一つとして検討いただければ幸いです。iPaaSの重要性iPaaSとは、Integration Platform as a Serviceの略称で、アプリケーションやシステム間の連携をクラウド上で実現するためのサービスです。オンプレミス、またはクラウド上の複数システムでバラバラに管理している情報を連携・管理できることが特徴です。SaaSの市場規模の拡大に伴いiPaaSが導入されるケースも増えてきています。国内での売上規模は、2021年時点で28億円程度といわれ、年率30%を超える成長を見せています。SaaSの市場が伸び続けていることを考えると、今後も需要は右肩上がりで広がっていくことが予想されています。iPaaSが備えている機能にはデータ連携や変換、データの監視・管理、ツール間のオーケストレーションなどがあります。複雑に絡み合うデータを連携し、ビジネスに活用するためには非常に有用なサービスとして評価されています。iPaaSとAPI連携の主な違いAPI連携は、SaaS間のデータを連携し、機能を拡張するためにAPIを利用する方法で、特定の機能間でのデータ連携に限定されます。例えば、顧客管理ツール(CRM)のAPIを使って顧客情報をリアルタイムで取得できるようにするのがAPI連携の一例です。一方、iPaaSはクラウド上でシステムやアプリケーションを統合するサービスで、データ変換やツール間でのオーケストレーションなど広範囲な機能を提供します。これにより複雑なワークフローの作成や自動化が可能で、効率的なビジネス運用が実現できます。例えば顧客管理ツールで顧客情報や受発注情報が入力された際に、顧客データをMAシステムと同期させ、自動メール送信を実現するということも可能です。また、それらの情報を経理情報データベースや在庫管理データベースとも即座に連携させることも可能になります。このように、データベースを横断した複雑なワークフローを設計したい場合や、データの加工や変換が必要な場面でiPaaSは力を発揮します。iPaaSを使用する場合のメリット・デメリット以下にiPaaSを使用する場合のメリットとデメリットについて記載していきます。メリット複雑なワークフローの設計が可能個別にAPI開発を行う場合に比べて複数のシステムとの連携を容易に実現できるようになります。あるイベントが発生した場合に特定のアクションや処理をトリガーすることができ、条件分岐やループ処理をサポートしており、ワークフロー内で特定の条件に基づいて分岐したり、繰り返し処理を行ったりすることもできます。システムの拡張性が高い組織の拡大や縮小に伴い、利用するSaaSの種類が大きく変わることはよくあります。SaaSの追加・変更が必要な状況に対しても、iPaaS上で柔軟に連携先を変更・拡張することができます。ビジネスサイドのメンバーが直接操作可能ノーコード・ローコードでSaaS間連携を実現できるiPaaSも数多く存在します。それほど複雑でないSaaS同士のデータ連携であれば、ビジネスサイドのメンバーでもワークフローを設計できるため、連携にスピード感を求められる状況では役立ちます。ツール間連携のコスト削減個別のAPI開発を実施する場合、API仕様の確認やレスポンスの解析など、API連携に熟達したエンジニアでないと正しい手順を元にした連携ができない場合があります。その点、iPaaSを利用すればエンジニアの工数を削減することができ、より効率的なビジネス運用が期待できます。デメリットAPIが公開されていないとシステム連携ができないiPaaSは個別のAPI連携をまとめた一つの集合体のようなものです。そのため、サービスやシステムがAPIを提供していない場合、iPaaSでの連携は行えない場合が多いのが現状です。パフォーマンスが制限される可能性があるiPaaSはクラウドベースのサービスであり、他のテナントとリソースを共有することがあります。これにより、パフォーマンスに制約が生じる可能性があります。大量のデータや高速な処理が必要な場合、直接的なAPI統合の方がパフォーマンスの面で優れている場合があります。 iPaaSとAPI連携の使い分け方API連携では、必要な機能に特化した連携で力を発揮します。例えば、天気予報APIを利用して、自社アプリに天気情報を表示させることを考えてみましょう。この場合、APIを通して得た情報を他のデータベースとの連携に使う必要は乏しく、わざわざiPaaSのようなデータベース間の連携サービスを契約する必要はありません。一方で、API連携で複数のツールのデータ連携を実現するのにはかなりの工数がかかります。API連携だけでデータ連携を乗り切ろうとした場合、それぞれのAPI連携に対して開発・保守の対応が必要になります。仕様の変更や機能追加に柔軟に対応するには専任のエンジニアを複数名抱えなければならなくなることでしょう。複雑に絡み合った連携を実現するのであれば、それぞれのAPI連携の仕様を管理する手間をiPaaSに肩代わりさせることができます。iPaaSを導入することで、システム障害を未然に防ぎ、コストを最適化することが期待されます。また、オンプレミスのデータからCSVを取得して連携する場合にもAPI連携だけでは対応しきれない場合も多く、iPaaSが活躍する可能性が高いと言えます。まとめ今回はiPaaSとAPI連携の違いや、それぞれのデータ連携方法が活躍する場面について説明してきました。API連携が必要な機能に特化した連携で力を発揮するのに対し、iPaaSは、複数のシステム間でのデータ連携・複雑なワークフローの設計が必要な場面で活躍することがお分かりいただけたかと思います。それぞれの特徴を理解し、システムやアプリケーションの規模や種類を考慮して、連携方法を適切に選択することが重要です。ビジネスプロセスの効率化や外部システムとの連携を考える際に、iPaaSとAPI連携を活用して、より効果的なビジネスを実現しましょう。