SaaS企業間の競争は年を追うごとに激しさを増しています。数ある競合企業の中で安定した売上を上げていくためには、新規顧客の獲得だけに目を向けているだけでは十分ではありません。顧客生涯価値(LTV)を向上させるために、一度契約していただいたユーザーが毎年安定した収益をもたらす仕組み化にも目を向けていくことが必要になります。本記事では、SaaS企業が安定的な売上を作り出すために取り組むべき4つのポイントを紹介します。SaaS企業における売上向上施策の勝ちパターンを知りたいという方は参考にしていただければ幸いです。顧客フォーカスの営業戦略の構築一つ目は顧客フォーカスの営業戦略の構築です。営業戦略を立案する際には様々な観点があります。例えば新規顧客の獲得効率をあげたり、サービスの露出媒体を増やしたりなどはイメージしやすい方法でしょう。顧客フォーカスの営業戦略では、ユーザーのニーズや成果を最優先に考慮していきます。この考え方は顧客中心主義(Customer Centric)とも呼ばれ、大手のSaaS企業でも取り入れられています。顧客フォーカスの営業戦略が有効である理由は、顧客のLTVを最大化することが期待できるためです。ユーザーが解約せずに長くサービスを使ってくれれば長期的に見た売上は最大化され、さらにファンになってくれたユーザーは新たなユーザーを呼び込んでくれるようになります。既存ユーザーからの紹介によって獲得されたリードは、サービス導入までの検討期間が短く、導入の意思決定率が高いという特徴があります。また、顧客獲得コストも低いため、一度効果を発揮すれば新規獲得を効率化するよりもはるかに大きな売上インパクトを経営にもたらします。既存ユーザーの影響で発生したリードは、新規顧客のリード(SQLやBDQL)と区別するために、CSQL(Customer Success Quarified Leads)と呼ばれます。顧客フォーカスの営業戦略を実施するためにはいくつかの具体的な取り組みが考えられます。営業チームはセールス後のポストセールスの取り組みにも力を入れるカスタマーサクセスやサポートチームの対応の質を向上させる製品に関するコミュニティを作り、顧客の製品エンゲージメントを高めるこれらの総合的な取り組みを通じて、ユーザーがプロダクトを導入したことによる成果を実感できるように努めることが重要です。アップセル・クロスセルの活用アップセルとは、ユーザーがすでに利用しているサービスに対して、機能やプランを追加することで売上を増やす戦略です。一方、クロスセルは、ユーザーに別のサービスを提供し、利用範囲を広げることを目指します。これらの戦略をうまく活用することで、既存ユーザーからの売上を増加させることが可能です。アップセル・クロスセル戦略をうまく機能させるには、営業チームで適切な方法論を共有することが重要です。特に代表的なものとして次の2つが挙げられます。ドアインザフェイス最初に過大な提案を提示することで、より小さな提案を受け入れやすくします。例えば、会社全体へのツール導入を提案し、その後一部門での製品採用を提案するなど、アップセルやクロスセルにも効果的な手法です。フットインザドアまず小さな提案を提示し、顧客が満足した後に大きな提案を行うことで、段階的に売上を伸ばすことができます。例えば、最初に一部門での利用提案を行い、トライアルなどを通じて顧客満足度が高まったら、より大きな提案を実施します。また、最適な営業の方法論をチームに浸透させると同時に、アップセル・クロスセルを成功させやすい戦略的なプライシングの設計も重要であると言われます。たとえば、コア機能をベーシックプランで提供し、その他の周辺機能をアドバンスドプランで提供するような、段階的なプライシングの設計が効果的です。このようなプライシング戦略を適切に設定することで、顧客が自分に適したプランを選択しやすくなり、アップセルやクロスセルの成功率を向上させることが期待できます。APIの改善による顧客利便性の向上APIは、ユーザーが外部のサービスやアプリケーションとSaaSを連携できるように公開されています。APIについての詳しい内容はこちらの記事で紹介しています。さまざまな種類のAPIをユーザーに公開することでサービスの使いやすさが向上し、ユーザーはより頻度高くサービスを利用してくれることが期待されます。近年、自社で開発しているサービスを外部から連携できるようにSaaS企業がAPIを公開する流れが、グローバルで活発化しています。例えば、顧客管理ツールを提供しているSalesforceは、SOAP APIやRest APIなど10種類以上のAPIを提供しています。ユーザーは自分たちのニーズに応じて適切なAPIを選択し、外部サービスとSalesforceを連携します。代表的なものとしては、SalesforceのCRM機能をマーケティング機能を提供する外部ツールと連携することで、顧客へのシームレスなコミュニケーションを実現します。Salesforceに止まらず、多くのSaaS企業はこの戦略を採用しています。ユーザーにとって、なくてはならないサービスとして認知され、継続率を上げていくためにもAPIの拡充と整備は重要な要素となります。外部サービスとの連携による開発効率の向上外部サービスを積極的に取り入れ、自社の開発効率を向上させることも重要です。自社では提供できない機能を外部に委託し、自社のコア機能に特化して開発を進めることができるようになるためです。外部サービスや既存のソリューションを活用するにはいくつかの方法が存在します。インフラストラクチャの構築Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどのクラウドプラットフォームを利用し、拡張性の高い仕組みを簡単に構築できます。サードパーティ製品の利用メール配信機能を提供するために自社でメールサーバーを構築する代わりに、SendGridやMailgunなどのメール配信サービスを利用することができます。APIでの連携外部サービスのAPIを利用して、必要な機能やデータを外部から取得することができます。たとえば、地図情報を利用する場合には、Google Maps APIやOpenStreetMap APIを活用することができます。地図データの管理や地理情報システムの開発にかかる時間と労力を削減できます。オープンソースの活用オープンソースソフトウェアを利用することで、自社で開発する必要がある機能やコンポーネントを利用できます。たとえば、WordPressやDjangoといったオープンソースのフレームワークを利用することで、ウェブアプリケーションの開発を効率化できます。ユーザーに向き合った機能開発を進めることで、売上拡大に向けた効率的な製品開発を進めることができます。まとめ今回はSaaS企業が取り組むべき売上向上に向けた施策を4つの観点でご紹介させていただきました。SaaS企業が売上を向上させるためには、ユーザーのLTV(生涯顧客価値)を意識した取り組みが重要であることをご理解いただけたかと思います。SaaS企業の経営者や開発者の方は、ぜひ参考にしていただき、自社のビジネスに取り入れていただければ幸いです。