SaaS(Software as a Service)は、インターネットを通じてビジネス向けのソフトウェアやアプリケーションを提供するサービスです。SaaSはクラウド上で提供され、必要なソフトウェアを簡単に導入できるため、最近急速に広まっています。Gartnerによるレポートによると、2022年の世界のSaaS を含むパブリッククラウドサービス市場への支出は4,903億ドル(約65兆円)であり、2023年にはさらに拡大して5,918億ドル(約82兆円)になると予想されています。つまり、2022年から2023年までの市場規模は20.7%増加することになります。SaaS市場の成長が底堅いことが伺えます。この記事では、SaaS市場のトレンドや将来の展望を紹介し、SaaS事業者が競争優位性を確保するために重要なポイントを紹介します。SaaS事業者の方の戦略立案に参考になる内容ですので、ぜひ一読していただければ幸いです。SaaS市場のトレンドSaaS市場で競合と差別化を図るため、抑えるべきトレンドを今回は3つに絞ってお伝えします。どのトレンドも近年の市場や技術の動向を踏まえた重要なものになります。人工知能(AI)を使った機能が登場Open AIによるChatGPTの発表から生成AI市場は一気に盛り上がりを見せました。SaaS事業者はOpen AIが提供するChatGPT APIを活用することで、対話型エージェント機能を簡単に実装できます。加えて、各SaaS事業者はこぞって独自の人工知能機能の開発にも乗り出しています。例えばSalesforceはEinstein GPTという世界初のCRM向け生成AI機能を発表しました。対話を通して顧客への提案内容を考案したり、キーマンの特定などができる機能を備えています。人工知能を搭載した機能の開発は今年の最も注目すべきトレンドと言えます。モバイルファースト開発の加速SaaSはBtoC向けの製品だけでなく、BtoB向けの製品でもモバイル対応が求められるようになっています。世界的にスマートフォンの普及が進んでおり、安定したインターネットに常時アクセスすることが可能になっているためです。例えばマーケティングオートメーション(MA)や顧客管理機能(CRM)を提供するHubspotではモバイル端末のツールへのアクセスを強化しています。TODOや商談内容の管理、チームメンバーとの会話など、今まではデスクトップPCからでしか操作できなかった内容をモバイルから入力できるようになっています。このようにモバイルを始めとしてユーザビリティを意識した開発が重要になりつつあります。マイクロニッチ化SaaS市場に参入してくるプレイヤーの数は年々増加し、年を追うごとに競争は熾烈さを増しています。競争環境に適応するためには、競合が既に顧客を囲い込んでいる市場と真っ向から勝負するのではなく、より小さなセグメントに向けた製品を投入することも必要になります。近年こうしたマイクロSaaSと呼ばれる、市場セグメントを絞り込んだSaaSの数が急速に増えています。マイクロSaaSでは運営コストも低くツールの提供費用も安価であることを特徴としています。SaaS業界の今後の展望SaaS業界の展望は今のところ明るいと言えます。SaaS市場は今後も益々拡大していきます。好調な市場の中で、今後のSaaS業界の展望を占うキーワードは、「D&A」と「垂直型SaaS」です。「D&A」とは、データとアナリティクスに関連する領域を意味します。D&A領域への投資を通して、データの管理や抽出、分析に至るまでのプロセスを省力化することができます。Gartner社の「2021 Emerging Technology Product Leader Survey」によると、多くのSaaS企業が、D&A領域に資金を投じている傾向が明らかになりました。例えば人工知能を使ったSaaSの登場はデータアナリティクスに関する領域への投資を更に加速するものと考えられます。人間はデータドリブンな意思決定やインサイト抽出に集中し、実務は人工知能に任せるという役割分担が明確になるためです。近年ではビジネスに悪影響を及ぼす潜在的な因子を検知する人工知能が登場していると言われます。ビジネスの成長予測・阻害要因の洗い出しを人工知能が担うことで、人間が担うべき役割はその他の領域に集中していきます。もう一つのキーワードが「垂直型SaaS 」です。垂直型SaaSとは特定の業界のニーズに答える機能を集中して提供するタイプのSaaSです。GoogleやMicrosoftと言った幅広い業界にソリューションを展開する水平型SaaSとは区別されます。垂直型SaaSでは業界により特化した機能を提供することで、競合との領域の差別化を図りやすいという特徴があります。SaaSのマイクロニッチ化のトレンドが続く中で、より勝ち筋が見出しやすい垂直型SaaS企業が大きく成長していくことになるでしょう。近年ではローコード開発を可能にするプラットフォームが数多く生まれ、開発工数をかけずともSaaSを開発できるようになりました。ビジネスサイドのメンバーでも顧客のより深いインサイトに根ざしていち早くMVP開発を進めることができます。垂直型SaaSは益々多様なビジネス課題に着手できるようになり、開発も加速していくことでしょう。SaaS企業が意識するべきポイントSaaS企業は今後どのような対策を取るのが良いでしょうか。以下に意識すべき具体的な3つのポイントを挙げていきます。人工知能を使った機能開発にいち早く取り組む人工知能のSaaSへの組み込みは未だ黎明期であると言えます。今後は人工知能の活用により、今まで以上に高度な予測分析や自動化、パーソナライズされたサービスの提供が可能になってきます。ChatGPT APIを活用したSaaSの事例は益々増えてきており、例えばShopifyではECサイトの訪問顧客に向けた商品のレコメンド機能を実装していると言われます。豊富な事例が集まる中で、今後はSaaS企業が人工知能を組み込むことがより身近な選択肢になるものと思われます。SaaS間連携を推進する競合優位性を作り上げる戦略で近年注目されているのがSaaS間の連携です。今までは一つのSaaSで顧客の全ての要望を満たせるように製品開発を進めるのが一般的でした。しかしSaaSへの期待が高まる中、他のSaaSと機能を連携することを前提に開発を進めるのが主流に変わりつつあります。SaaS間連携により、自社が強みを持つ機能に開発工数を集中させることができます。また、SaaSを横断して存在するデータの統合・分析もSaaS間連携により実現できるようになります。コンテンツマーケティングを強化する垂直型SaaSの数が増えると共に、コンテンツマーケティングが競合差別化を図る上で重要な役割を担います。SaaSに関する統計を取り上げた記事によると、コンテンツマーケティングに取り組んでいるSaaS企業は限定的で、SaaS企業のうちでも全体で11%程度に止まると言われます。これは裏を返すと今から対策をすることでマーケットのシェアを獲得できるチャンスがあることを意味します。長い目線に立ったマーケティング活動に取り組めるかで事業の成否が決まると言えます。まとめ今回はSaaS市場におけるトレンドや今後の展望をご紹介し、SaaS市場で競合優位性を勝ち取るために意識すべきポイントをご紹介してきました。SaaS市場は2023年以降も成長が予測されており、人工知能・モバイルファースト・マイクロニッチなどがトレンドとして取り上げられます。SaaS企業間の競争が激化し、競合優位性を獲得するのが難しい中でも、人工知能に関する機能開発・SaaS間連携の推進・コンテンツマーケティングの強化などの外すことができない打ち手があることをお分かりいただけたのはないでしょうか。自社のSaaS事業を発展させるためにも、次の一手を考える参考になれば幸いです。