SaaS(Software as a Service)ビジネスはここ数年で急速に普及し、認知度も上がってきました。しかし、SaaSの種類には大きく分けて「バーティカルSaaS」と「ホリゾンタルSaaS」があることはご存じでしょうか。「バーティカルSaaS」と「ホリゾンタルSaaS」とではビジネスモデルやマーケティングの方法なども異なってきます。開発に乗り出すにはこれらの違いを無視してソリューション開発を行うことは危険だといえるでしょう。そこでこの記事では、バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの違いに焦点を当て、それぞれの特徴と利点を説明します。これからSaaSの事業開発を考えられている方、SaaSのビジネスモデルにご興味を持たれている方は、是非今後の事業構想の参考にしてください。バーティカルSaaSとはバーティカルSaaSとは、特定の業界や業種に特化したSaaSのことです。業界での作業や業務フローに合わせて設計されており、他の業界や業種での利用は難しい場合があります。その分、特化したニーズの深堀りがされるため、ユーザーにとっては使いやすいサービスになります。バーティカルSaaSを開発する際には、その業界や業種で必要とされる機能や、業務フローを理解し、それに合わせた設計や機能の実装が求められます。また、専門的な知識や情報を持った開発者が開発に携わることが望ましいです。例えば、建設業向けのバーティカルSaaSを提供する「スパイダープラス」は2021年に東証マザーズに上場しました。スパイダープラスでは、工事現場の進捗管理や出退勤管理、原価管理、見積書作成などの業務を効率化することを目的としたソフトウェアを提供しています。建設業界においても紙ベースからデジタル化への移行が進んでおり、効率的な業務管理を求めるニーズが高まっている中、業界に特化した製品・サポートが市場に評価された良い例であると言えます。バーティカルSaaSのメリットバーティカルSaaSのメリットとしては、以下のような点が挙げられます。業界の専門知識による優位性:バーティカルSaaSは、特定の業界に特化したソリューションを提供するため、その業界のニーズや課題を深く理解しています。そのため、ソリューションの提供に留まらず、ビジネス戦略やプロセスに関する専門的なサポートが競合との差別化に繋がりやすく、優位なポジションを築くことができます。競合が少ないターゲット市場:特定の業界に焦点を当てているため、競合他社との競争も相対的に少なく、狭いターゲット市場を攻略しやすいと言えます。そのため、より効果的なマーケティング戦略の実施が可能となります。顧客ニーズに合わせた製品アップデートの容易性:特定の業界の標準プラクティスを考慮した機能を提供することができるため、顧客に必要なカスタマイズや変更を容易に行うことができます。そのため、顧客ニーズに迅速に応えることができ、顧客満足度を高めることができます。ホリゾンタルSaaSとはホリゾンタルSaaSとは、業界や業種を問わず、様々な業種や業界で使える汎用的なSaaSのことです。様々な業種や業界で使えるような基本的な機能を備えたサービスであり、業界特化の機能を備えることは少ないのが特徴です。ホリゾンタルSaaSを開発する際には、業界横断の基本機能を備えた汎用的なサービスを開発することが求められます。そのため、市場の需要を調査し、競合他社との差別化を図るような機能の追加や、セキュリティ対策などが重要なポイントになります。例えば、グループウェアの「Google Workspace」は、メール、カレンダー、ドキュメント管理、チャット機能、ビデオ会議など、ビジネスに必要な機能を網羅したサービスです。業種や業界に限らず、あらゆる企業や組織で利用されています。また、Googleのグローバルなネットワークを利用しているため、世界中のどこからでもアクセスすることができます。ホリゾンタルSaaSのメリットホリゾンタルSaaSのメリットとしては、以下のような点が挙げられます。巨大な市場規模:ホリゾンタルSaaSは、様々な業界や顧客ニーズに適合するように設計されているため、市場規模が大きくなります。そのため、顧客獲得が比較的容易になります。競争力のある値段設定が可能:多くの顧客が利用することができるため、サービス料金を低く設定することができます。この価格メリットにより、顧客の解約を抑止することができます。マーケティング戦略の設計が容易:汎用的なサービスを提供するため、新規顧客獲得も比較的容易になります。そのため、顧客獲得コストを抑えた計画的なマーケティング投資を実施することができます。それぞれ開発で気をつけることバーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSは、それぞれ特徴やメリットが異なるため、開発時に気をつける点も異なってきます。バーティカルSaaSの開発で注意すべきこと業界のニーズに精通した機能開発特定の業界に特化したソリューションを提供するため、その業界に必要な機能を提供する必要があります。開発者は、業界のトレンド、規制、法律、標準プラクティスなどを理解し、それらに基づいてシステムを設計する必要があります。業界専門知識の習得開発者は、顧客に必要なカスタマイズや変更を行うことが重要です。顧客の要望に合わせて機能を追加したり、業務プロセスを変更できるようにする必要があります。サポートの提供業界特有の問題に対応するため、顧客に対して高度なサポートが求められます。開発者は、顧客の問題に対応するために、エキスパートのサポートを提供する必要があります。ホリゾンタルSaaSの開発で注意すべきこと顧客からの声を反映した製品設計多様な顧客ニーズに対応できるように製品を開発することが重要です。クロスファンクショナルなチームを編成し、プロダクトマネージャーやカスタマーサクセスが顧客からの声を常に収集し、ニーズに対する感度を上げていく必要があります。開発する機能についての優先順位づけ多くの業界で利用されることが想定されるため、機能の汎用性が求められます。顧客から集まった声やプロダクト戦略の両面を念頭に置きつつ、開発する機能には優先順位をつける必要があります。開発ロードマップを作成し、社内外のステークホルダーからの合意を取り付けることも必要です。スケーラビリティの確保多数のユーザーに提供されるため、スケーラビリティの確保が重要です。開発者は、ハードウェア、ソフトウェアの両面でスケーラブルなシステムを開発し、アプリケーションの負荷に対応できるようにする必要があります。セキュリティの確保 多くのユーザーが利用するため、セキュリティの確保が重要です。開発者は、個人情報の保護、データの暗号化、アクセスコントロールなどのセキュリティ対策を講じることが必要です。まとめバーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSのそれぞれの特徴やメリットについて取り上げてきました。バーティカルSaaSは、特定の業界や業種に特化した機能を備え、その業界での作業や業務フローに合わせて設計されています。そのため、サポートやエキスパートによる競合との差別化が重要な要素です。一方で、ホリゾンタルSaaSは、様々な業種や業界で使えるように基本的な機能を備えています。開発時には、顧客からの声を分析し、開発ロードマップをを立て、より多くの顧客から支持される機能の追加やセキュリティ対策を実施する必要があります。上記のような違いを踏まえ、適切なビジネスモデルや開発体制の構築を進めていただければ幸いです。